ふつうの人はCDなんてもう買わなくなった

How unfashionable to buy music CDs nowaday

Wattstax: スタックス・コンサート

1972年ロサンジェルス・ワッツで開催された伝説のコンサートを撮ったドキュメンタリー映画、1973年にヒットした作品。これは音楽映画である以上に、黒人問題の映画。Black Lives Matter の問題がずっと続いていることを感じ取ることができる。

ワッツは、1965年に大規模な暴動が起こった場所。ここで黒人が、平和裡に大規模なコンサートを成功させたことに意味がある。コンサートの様子のあいだに、一般黒人たちの会話や証言と、コメディアンであるリチャード・プライヤーの寸劇があいだあいだに入るという構成。人種問題はもちろん大テーマで、それにジェンダーや貧困の問題も、黒人の生活の現実として描く。

圧巻は、エディー・フロイドのパフォーマンス。大事故になりかねない観客の乱入を盛り上げ、沈静するその見事な手際。エディーはもうベテランでおじさんだが、世代を超えた黒人の、 Brothers & Sisiters の繋がりの強さを感じるよなあ。そして、その黒人共同体の中で、当時のアイザック・ヘイズがいかに大スターであり、カリスマであったかを認識させられる。

もっともこのコンサートは、排他的な黒人主義ではなく、リベラルな空気のある黒人主導イベントだったようで、それは映画自体の製作指揮もとったアル・ベルやラリー・ショウ、メル・スチュアートらの手腕によるもの。メルは白人。

僕はこれを格安でもある「スペシャル・エディション」で買って観たが、このバージョンを激推ししたい。というのは、特典として解説音声が2本分ついていて、ひとつはメルやアイザックによる解説、もうひとつはパブリック・エネミーチャックDと著述家のロブ・ボウマンによる解説。お薦めの見方は、まずは解説無しでふつうに視聴を。それから、チャックD&ボウマンの解説入りを観ると、もとの映画がまったくちがうAnother Story のように見えて、二倍以上の面白さ。つまりこのDVDは、映画二本分以上の価値がある。メルとアイザックによる解説もおもしろくないことはないけど、いわゆる「解説」、いわば脚注。チャックDとボウマンの解説は、オリジナルのストーリーを裏から読み解くようなスリルがある。

ウッドストックと比べられることのある伝説的コンサートであるが、ウッドストックではアーティストが設備や環境の悪さにみな文句を言っていたのに対して、ワッツタックスの出演者はこのイベントにみな感動したそうな。むべなるかな。

ソウル・ファンはもちろん、ブラック・ライヴス・マター問題に興味を持った人にも、今だからお勧めできる一本だ。