1967年発表の「極東組曲」。1968年のグラミー賞受賞作だが、これはたしかに傑作だ。なんせゴージャスで、デューク独特のイルなテイストもあって。そこに深みがある。
A1 Tourist Point Of View
A2 Bluebird Of Delhi (Mynah)
A3 Isfahan
★A4 Depk
★A5 Mount Harissa
B1 Blue Pepper (Far East Of The Blues)
B2 Agra
B3 Amad
★B4 Ad Lib On Nippon
A1の入りから、いいなあ、コレ。エキゾチック×スリリングなリズム。たんにエキゾチックであることに浸りきった音楽ではなく、ジャズとして昇華されている。このアルバムは、インドや中東、および日本旅行から受けた強い印象をもとにしているそうだが、しかし、現地の音楽に影響されすぎないように意識したと言い、そういう抑制的な態度がこのアルバムを「デューク自身の旅行印象記」として完成度の高いものにしている。ちょっとまじめな話をすれば、一曲目の曲名から「観光客の視点」と、オリエンタリズムを対象化しているところもしぶいではないか。「チュニジアの夜」なんかも意識しながらね。また、このアルバムは、エリントンの盟友である編曲者ビリー・ストレイホーンにとっては遺作にあたる。
A3 「イスファハーン」は本アルバム中もっとも有名な曲だが、それも納得のナンバー。・・・・・・と書いたが、曲をまちがえた、A4「デプク」のほうが断然好きだね。ジャキー・マクリーンの「オールド・ゴスペル」を思わせる。
A5の曲名にあるハリッサ山は、ベイルート郊外にあって、マリアの彫像のある山だそうだが、おそらくはそうと意識して、黒人スピリチュアル "Go Down Moses"風のフレーズを奏でるデューク。 ふだんは必ずしもそれを押しださないデューク・エリントンが、中東アジアで目覚めたように、黒人としてのルーツを表現するなんて興味深いではないか。ここでも、彼が一連の旅行からたんに新奇なエキゾチシズムだけを受け取ったわけではないことがよく分かる。デュークによる「ソウル・ミュージック」として、本作内にあっても異彩を放つ。
このアルバム中もっとも長尺の曲(11分半)、B4「アドリブ・オン・ニッポン」もおもしろく、かつ美しい。前半部などは、「セロニアス・モンクが黛敏郎に出逢った~」みたいな曲調になっている。油井正一によれば、「デュークこそモンクの生みの親」なのだそうだが。A5といいB4といい、自らのピアノを前面に出しているところに、表現者としてのデュークが本気を出した作品なんじゃないかなと思う。ピアノともに活躍している、「尺八役」のクラリネットはジミー・ハミルトン。